All That I Needed(あとち)

写真と毎日とひとりごと。

かにみそ

夏なのでかにみそを食べました、じゃなくて読みました。

第20回日本ホラー小説大賞優秀賞を受賞された倉狩 聡さんの小説。かにみそ。

ホラー小説なのに表紙がかわいい。

かにみそ (角川ホラー文庫)

かにみそ (角川ホラー文庫)

 

感情乏しいアンニュイな主人公が不思議な人喰い蟹と出会い飼育し交流することで、どんどん生き生きとしていくのが良い。この主人公の心の変化が後々蟹との別れの原因にもなるのだけど。

肉食なんですけど、憎めなくてかわいいんですよね、蟹。蟹は人を食べてしまう。だからずっと一緒にはいられない。物語の後半で蟹は主人公の見てないところで人間を捕食をし、それについて咎められると「ごめんよ」と謝るのだけど、「でもどうして怒るの?」と続ける。主人公を不快にさせてしまったことについては謝るのだけど、食事をすることについては何がダメなのかわからない。いくらお互いを信頼していても、埋めることの出来ない溝の深さを感じさせる、苦しいくらい切ないシーン。

最終的にもちろん二人は別れの時を迎えるのだけど、このシーンはぜひ読んでほしい。

 

倉狩 聡さんの描くアンニュイな青年は、現代人ならば共感できることも多いのだけど、同族嫌悪に似た感覚で、なんとなく共感したくない。

「おまえ、べつにおっとりでもないよ。ただ単に元気がないだけさ。弱ってる生き物がおとなしいのと同じだよ」

自分を「おっとりした草食系男子」だと言う主人公に対して言う蟹のセリフなのだけど、これ、心に刺さる人多いんじゃないかと思う。「大人になって落ち着いたな」「大人しくなったな」と思っていたけど、昔と比べて元気がなくなっただけなのかもしれない。元気がなくなったことを、大人しくなったというプラスのように見える言葉でごまかしているのかも。読みながらそんなことを考えていました。

 

二本目は『百合の火葬』。こちらは怖いのが百合の花。裏側(お腹の部分?)が怖い蟹と、なんとなく模様や色が怖い百合。チョイスが素敵ですよね。

余談ですが、どちらの主人公もなんとなく毎日を生きているような感じが似ているのだけど、『かにみそ』の主人公には名前がなくて、『百合の火葬』の主人公には名前があるんですよね。些細なことだけど、結構違う。どこかの誰か的な名前のない『かにみそ』の主人公より、しっかり名前や背景のある『百合の火葬』の主人公の方が「なんかこいつ好きになれんな…」感が強かったりするのかな、と。

二本続けて読み終わってそんなことも考えてました(笑) 

…夏にオススメの本です、って紹介しようかなーと書きかけのまま忘れていて、もう夏が終わってしまいますね(笑)